こんにちは、ふみです。
わたしは、看護師長として12年間、副看護部長として6年間、
看護部長として3年間、働いてきました。
毎日の看護管理のなかで、
問題があることはわかるけど、どこから手をつければいいか、
問題の原因を分析したくても、分析方法がわからない
と、立ち往生することが、よくありませんか。
前回は、看護管理者が持っている情報を分析するための、考え方の視点やポイントを説明しました。
今回は、情報を分析し問題を解決するために、看護管理者が知っておいたほうが良いツール(分析手法)のひとつSWOT分析を説明します。
認定看護管理者の研修(ファースト、セカンド、サード)の実践計画でも、よく使われるツールです。
今回は、看護師長の立場で、説明していきますね。
SWOT分析は、組織(病院、看護部、病棟・部署)の現状を分析するためにつかわれます。
まず、組織の外部環境と内部環境を分析します。
外部環境の情報収集
外部環境とは、分析する組織の外の環境を指します。
自分が管理する部署を分析するときは、自部署の外のことはすべて外部環境になります。
例えば、看護部の方針や病院の特性、地域性、社会の動向、国の法律や制度も含まれます。
こう見ると、外部環境の範囲は広いです。
影響の度合いで、マクロ環境とミクロ環境に分けたほうが、わかりやすいです。
マクロ環境は、
地域の人口動態、地域周辺の状況、社会制度や診療報酬改定など、間接的に影響を与えるもの
ミクロ環境は、
看護部の動向や、患者層やニーズなど、直接に影響を与えるもの
内部環境の情報収集
内部環境とは、自部署の内部環境を評価・分析します。
さまざまな切り口から、客観的に評価していきます。
切り口例1
- 人材(スタッフ、スキル、意欲)
- 看護の質(医療安全、感染対策、褥瘡予防、抑制実施率、再入院率)、
- しくみ、ルール、風土(組織の活性化)
- 患者の満足度、経営指標(利用率、平均在院日数)
- 看護の生産性(委員会活動、超過勤務時間)
切り口例2:フレームワークの活用 例:マッキンゼーの7S
ソフトの4S
- Shared value 共通の価値観・理念(組織の理念、看護部の目標、病棟の目標、医療安全文化)
- Style 組織文化、経営スタイル(経営管理、労務管理、人材管理、情報管理、情報伝達と共有、多職種連携)
- Staff 人材(スタッフの経験年数、継続勤務年数、仕事に対する意欲や態度、離職率、仕事への参画の程度、委員会や院内研修の参加状況、人材育成状況)
- Skill 組織に備わっている強み、スキル、能力(診断やケアのスキル、マネジメントスキル、スタッフの能力や所有している資格)
ハードの3S
- Strategy 戦略(組織の理念を達成するためのアプローチ法)
- Structure 組織構造(組織図、チームの割り振り)
- System システム、制度(クリニカルパスの運用、電子カルテシステム、看護計画の運用、物品管理、病室のアメニティ、院内の規定、マニュアルや手順)
4つの枠組みでの分析
外部環境と内部環境で得た情報を「内部環境である強み(S)」と「内部環境である弱み(W)」、「外部環境である機会(O)」と「外部環境である脅威(T)」の4つの視点から分析します。
強み(S)
他部署に比べて、自部署の優れているところ、良いところ、自慢できるところ
・強みを持ったスタッフの存在(認定看護師の在職、ラダーレベルの上位のスタッフ割合、スタッフの経験年数など)
・部署や病院の評判(患者満足度、紹介率など)
・看護の質(医療安全のデータ、褥瘡発生率、身体抑制実施率など)
・人材育成や新人の育成(教育体制、勉強会の実施状況など)
・職場風土(人間関係やスタッフのモチベーション、離職率、年休取得率など)
・経営指標(平均在院日数、利用率など)
弱み(W)
他部署に比べて、自部署の劣っているところ、悪いところ、課題とするところ
・弱点となるスタッフがいるか(若く経験年数の少ない集団、診療科の看護に慣れていないなど再教育が課題)
・人間関係(ほうれんそうの実施状況、協力体制など)
・組織の活性化(職務満足度、患者からの苦情、スタッフの意欲はどうか)
・看護の生産性や質(スタッフの人数、超過勤務時間、インシデントの件数、退院調整の実際、手順やルールの順守、看護提供方式など)
・医療チームの連携状況(医師への報告、他職種との協働)
・経営指標(平均在院日数、利用率、緊急入院の受け入れ状況など)
機会(チャンス)
現在の外部環境の状況がこのまま続いたら、自部署にとって、メリットや成長させる機会になる事柄
・自部署の強みを強化することに活用できること
・自部署の弱点を克服することに活用できること
脅威(ダメージ)
現在の外部環境の状況がこのまま続いたら、自部署にとって、デメリットやリスクとなる、成長を妨げる要因となる事柄
・自部署の将来にとって、回避した方がいいこと
・自部署の将来にとって、対策を考えたほうがいいこと
SWOT分析例
4つの枠組みからなるSWOT分析の例を提示します。
看護師長さんの立場で、分析しました。
S:強み | W:弱み |
1.7対1の入院基本料を取得している。(人数の確保) 2.離職率が低い 3.自部署経験年数が5年以上の看護師が3分の2を占める 4.委員会やリンクナース会の活動が活発である 5.他病棟と比較して超過勤務時間が少ない | 1.高齢患者が増え、退院支援がうまくいっていない 2.診療報酬に関しての勉強が不足 3.新しい取り組みや提案があまりない 4.部署異動を希望しないスタッフが多い 5.新人教育が担当者任せになっている |
O:機会 | T:脅威 |
1.看護部の教育ラダーにそった院内研修が充実している 2.付属の訪問看護ステーションがある 3.救急車の受け入れ件数が増加している | 1.認知症の患者が増加している 2.近隣に三次救急病院が複数ある 3.診療報酬のマイナス改定が続いている |
クロスSWOT分析例
SWOT分析を用いて、現状分析したあとに、
クロスSWOT分析で、重点的に取り組む課題を検討します。
積極的戦略
機会をつかんで、強みをさらに生かします。
「看護の質向上」
経験がある看護師が多く、委員会活動も活発なので、教育を充実させて、看護ケアの質を向上
「緊急入院の受け入れ増加」
教育によって看護できる診療科を増やしたり、生産性を向上することで、緊急入院の受け入れを増やす
差別化戦略
強みを生かして、脅威に対抗します。
「認知症看護の充実」
リンクナース会の活動を通して、高齢者ケアを充実
弱み克服
機会をとらえて、弱みを強みに変えたい。
「退院支援の充実」
院内研修や訪問看護ステーションの看護師との連携等で、入院早期からの退院支援に取り組む
最悪事態回避
弱みと脅威で最悪事態を招かないようにしておきたい。
「診療報酬の学習会」
診療報酬を勉強し、医療や看護の動向をスタッフが理解することで、変化に取り残されない。
「新人教育の見直し」
一部のスタッフに任せるのではなく、部署スタッフ全員で育てる風土をつくることで、離職を防止
重要課題の決定
クロスSWOT分析で、明確になった課題の優先度から、目標を設定します。
優先度は、以下の基準で検討します。
緊急性 すぐに対処しなければ大変な問題に発展するかどうか
重要性 放置したり見過ごしたりすると、大きな問題に発展するかどうか
実現可能性 壮大な解決が困難な課題に取り組んでいるうちに、簡単な課題の取り組みが遅れ、大きな問題に発展するかもしれません。課題の解決は、やさしい課題から取り組むのもひとつの方法です。
先ほどのSWOT分析では、以下のように課題のバランスを考えました。
まとめ
情報を分析するためのSWOT分析を、例をまじえて、解説しました。
手順を振り返ってみます。
1.外部環境と内部環境の情報を集めます。
外部環境は、地域の人口動態や、周辺の状況、社会制度や診療報酬等のマクロと、自病院の看護部の動向や、自病院の患者層やニーズなどのミクロ情報
内部環境は、自部署の状況(データを集めたり、スタッフの率直な意見を聞いたり)
2.4つの枠組にそって、情報を分析します。
内部環境での強み:自部署の優れているところ、良いところ
内部環境での弱み:自部署の劣っているところ、改題とするところ
外部環境での機会:自部署にとって、チャンスとなること
外部環境での脅威:自部署にとって、ダメージとなること
3.クロス分析します。
積極的戦略:機会をつかんで、強みをさらに生かす
差別化戦略:強みを生かして、脅威に対抗する
弱み克服:機会をとらえて、弱みを強みに変えたい
最悪事態回避:最悪事態を招かないように、回避したり改善したり
4.重要課題の決定し目標設定
緊急性と重要性のバランスをみて、優しい課題から取り組むのもひとつ。
お疲れさまでした。
自部署の管理、特に目標設定のときに、
参考になれば、うれしいです。
わかりやすい、お勧めの本も紹介します。
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