前回は、労務管理について説明しました。
労働基準法に則って、働きやすい職場にしていくために、看護師長が現場で実践することを紹介しました。
スタッフが辞めない、働きやすい職場をつくるのは
看護師長次第だと思います。
これは看護部長としての実感です。
看護師長が変わると、離職も変わります。
そこで、働きやすい職場を具体的に、
健康的な労働環境の確保と労働者の健康向上を目的とした【労働安全衛生法】で見ていきます。
特に、看護の現場をマネジメントする看護師長が知っておきたいことを
日本看護協会社会経済福祉指針「労働安全衛生ガイドライン」(2004年)を参考に紹介していきます。
法律やガイドラインを知ることは、マネジメントのエビデンスになります。
看護も、法則やガイドラインにそって、
実践をすることで、質が高まりますが、管理も同じです。
労働安全衛生法とは
スタッフが健康で働き続けられる職場環境づくりが重要です。
看護職は、日々の勤務環境の中で、さまざまな危険要素に曝されています。
労働安全衛生法は、労働基準法から労働安全衛生に関する条文を分離独立して1972年に制定されました。
労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、
「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。
2015年の法改正で、「ストレスチェック制度」が事業主に義務づけられました。
また、2013年には、厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、
新たに医療・福祉分野も対象として、看護現場での腰痛予防対策も紹介しています。
看護師長は、職場環境の改善に取り組むと同時に、
スタッフが自らの健康の維持増進に関心をもち、関与できるように支援することも必要です。
日本看護協会社会経済福祉指針「労働安全衛生ガイドライン」が提唱する「ヘルシーワークプレイス」
「労働安全衛生ガイドライン」は、
看護職の労働安全衛生を守り、
健康で安全な職場環境を実現するための
「ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)」を目指してます。
「ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)」の定義
- 一人ひとりが健康で安全に自分らしく働きながら自己実現していくことができる職場環境・風土
- 組織が職員を業務上の危険から守り、一人ひとりの健康支援に取り組む職場環境・風土
- 職員と組織の活力を生み出すことで、患者(利用者)へのケアの質が向上し、社会への貢献を目指す職場
「ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)」の構成要素
ヘルシーワークプレイスは、「働く場」であり、仕事として「看護」を実践する場です。
その場を作り上げるには、以下の4つの視点で成り立ちます。
【看護職一人ひとり】より良い看護を継続的に実践する。
自己の健康を維持し、ケアを提供する能力が損なわれないようにする。
【看護管理者】職場における業務上の危険を管理し、看護職が自分自身の健康づくりに取り組むことを支援する役割がある。
看護管理者には、職場で重い責任を担うため、自分自身の健康を大切にする。
その実践は看護職のロールモデルとなる。
【組織・施設】業務上の危険を管理し健康づくりを支援する。
健康で安全な職場づくりは「コスト」ではなく、持続可能性を高める「投資」である。
【地域・社会・患者(利用者)】継続的なより良い看護実践の提供を望む。
健康経営
ガイドラインから話はちょっとずれますが
経済産業省からは、
「健康経営」とは、従業員の健康管理を行うことで
従業員の活力や生産性の向上など組織の活性化を促し、
従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを『健康への投資』であると発信されています。
2017年から、健康経営に取り組む優良な法人を見える化するために、
「健康経営優良法人認定制度」を創設し、認定企業を公表しています。
健康経営に関心が高まっている背景として、
- 生産年齢人口の減少と従業員の高齢化
- 深刻な人手不足
- 国民医療費の増加が 挙げられます。
こうした課題を背景に、人材を確保し、長くいきいきと企業で働いてもらえる環境づくりが、
継続した企業活動には不可欠と考えられて、健康経営への関心が高まっています。
わたしたちの現場でも、
人材を確保し、医療チームワークを高め、それぞれの専門能力を発揮し、
いきいき働ける職場でありたいですね。
そうすれば、年を重ねても長く働くことができ、
離職率も下がり、人員不足も少しは解消するのではないかと思います。
業務上の危険から看護職を守る、安全な職場づくり
看護職を取り巻く「業務上の危険(ハザード)」とは
生物学的要因、物理学的要因、化学的要因、人間工学的要因、交通移動要因、
勤務・労働時間要因、心理・社会的要因
安全な職場づくりの取り組み
組織全体
- 委員会の設置
- 衛生管理者の活用
- 保安体制の整備
- 環境の整備(設備・防護機材など)
- 健康診断の実施
- マニュアルの作成及び定期的評価
- データ管理による情報の共有・管理の向上
- リスク評価
- 看護管理者および職員への教育・研修
- 適切な労災申請・補償
- 相談窓口の設置
- 外部機関・資源の活用
- 患者への協力・支援など
看護部の体制
作業環境の確認や基準・手順などの定期的な見直しと、
職員教育プログラムの作成が、ポイントです。
また、医療安全管理者や感染管理者とも連携します。
まずは、作業環境の確認と改善。
7つの業務上の危険の現状、予防と対策の状況を、ラウンド(巡視)によって確認します。
年2回の法定の健康診断受診率は、看護職員の健康管理の重要な指標
交代勤務の都合で受診出来ないことがないよう勤務表を配慮し、
未受診者には、受診を勧奨して100%を目指します。
2016年から開始されたストレスチェックも職場環境改善の指標とします。
ストレスチェックの部署別の結果は、
業務量や看護師長との関係性を反映していました。
適切な労働時間管理は、看護管理者にとって最も重要
前回に説明した時間外勤務の管理も重要な課題です。
時間外労働の実態を把握して、業務見直しや要員配置の適正化などで縮減を図りますが、
これには看護部門だけでなく他部門・他職種の協力も必要です。
24 時間 365日業務が行われている看護の現場では、
「仕事を引き継ぐ」というマネジメントが必要です。
長時間労働による職員の健康への影響に注意を配る必要があります。
労働安全衛生に関する教育プログラムの作成
看護管理者には、労務管理に関する基礎知識やハラスメント対策に関する研修を計画します。
新採用時研修では、ストレス対処法や睡眠・食事・休息など体と心の整え方を教育します。
自分の健康を守るための知識と技術を身につけ、
夜勤を導入する時期には、体調や睡眠時間に気を配ります。
勤務表の作成には
部署の看護を安全に提供できるシフト体制マネジメントと、
スタッフ一人ひとりの健康維持のための労働時間管理の両面があります。
看護職員自身
スタッフ自身が業務上の危険から自分自身を守ることを意識し、
適切な行動をとることで、職場の労働安全衛生の取り組みが効果を上げます。
職場の就業規則や規程、心得、手順書などの「仕事のルール」を確認します。
一般に、事故は不安全な状態や不安全な行動、不注意によって起こると言われています。
不安全な行動は自覚と経験で避けられます。
そして、不注意については、個人の日常生活上の態度や習慣が間接的に影響します。
社会人として、心身のリズムをできる範囲で整え、自分の健康は自分で守り、
ある程度そのリズムに波がないように努める必要があります。
これは労働契約に付随する「自己保健義務」にあたり、職員と勤務先との約束ごとと言えます。
危険な7つの要因と予防対策
生物学的要因
職場における生物学的に危険な因子には、ウイルス・細菌・真菌・植物などが一般的に挙げられます。
具体的には、
- B 型肝炎(血液媒介)・C 型肝炎(血液媒介)・A 型肝炎(糞尿などの接触)、結核(空気感染)などです。
- 近年では、COVID19をはじめ、新型インフルエンザ、MERS(中東呼吸器症候群)、ジカ熱、デング熱、エボラ出血熱など多くの感染症も発生しています。
- 医療機関では、HIV/AISD、水痘、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹にも注意です。
マニュアルや各種ガイドラインを十分に活用し、
全ての職員が守れるルールをつくり、実践に合っているか、定期的な見直しが必要です。
看護職一人ひとりは日常の現場で、ルールを正しく理解して実践し、患者(利用者)の安全を守ります。
それと同時に、自分自身の安全を守らなければなりません。
また看護職は、自らが感染源となりうることを理解し適切な行動をとることが必要です。
物理的要因
職場における物理的に危険な因子には、
電気、熱、音、不適切な換気、レーザ煙、電離性放射線、非電離性放射線、光、
電子機器(ブルーライト)などが挙げられます。
働く場所の環境によって異なります。
例えば、内視鏡室や手術室は光度が制限された環境だったり、
訪問看護では、患者(利用者)のお宅が、夏の暑い時期でも冷房を使用していなかったりと。
放射線の管理は、法令が関係していますが、
防護の三原則(正当化・防護の最適化・線量限度の適用)を守りましょう。
化学的要因
化学的要因とされる物質には、
消毒剤、滅菌剤、薬物、試験試薬、清掃薬剤、殺菌剤などがあります。
例えば、
- エチレンオキシド(医療器具の滅菌消毒に使用)
- ホルムアルヒド(病理・解剖室で使用)
- グルタルアルデヒド(医療器具の殺菌消毒に使用)
- ラテックスアレルギー
- 抗がん剤などの HDs(ハザーダスドラッグ)
化学的要因による危険を防ぐためには、まず危険を知ること、
そして危険の特徴や特性を知り、実際の曝露状況を調べることなどがあげられます。
さらに、化学物質を取扱う人の数や場所を制限し、
使用する化学物質をよく吟味して最小限にすることも重要です。
人間工学的要因
人間工学的な危険とは、患者(利用者)の移動や処置などに伴う、不安定な姿勢での作業動作が挙げられます。
人間工学的要因による心身のリスクとして、
- 腰や首・肩・手首の痛み(筋骨格系障害)など
- 電子機器の急速な進歩により、電子カルテやタブレット型機材などの使用頻度が増えたことにより、眼精疲労や肩こり、手根管症候群の痛みやしびれなど
職場における腰痛は、多くの業種でみられますが、特に、医療や介護の現場で腰痛を患う人は少なくありません。
腰痛のある看護職は、離職意向にも有意に影響していると言われています。
職場における腰痛予防はヘルシーワークプレイスの実現において重要な課題といえます。
交通移動要因
通勤時や、利用者宅への訪問その他の業務上の移動時に、
- 自分自身が自動車・バイク・自転車を運転して事故を起こすこと。
- 公共交通機関(電車・バスなど)の利用時の転倒や混雑によるケガの発生。
交通事故は自分自身だけでなく、第三者をも巻き込むことも考えられます。
その場合、運転者は当然に法的・社会的な責任を問われます。
多くの看護職は、夜勤や交代制勤務をしており、不規則な勤務に合わせて通勤するため、
移動の時間帯が早朝や深夜となり、これに伴って危険が増すことがあります。
また、自宅待機(オン・コール)から、緊急呼び出しによって勤務時間外に出勤する場合もあります。
組織として、職員の安全をも守る対策に取り組む必要があります。
一人ひとりの安全意識や安全行動への動機づけも大切です。
夜勤明けで帰宅する場合は、休息がとれる場所や設備が確保されていると安心です。
勤務・労働時間要因
過労につながる長時間の勤務や、適切な休息の確保を妨げるような勤務編成は、
労働安全衛生上のリスク要因であるといえます。
交代制勤務は交代時刻で次の勤務シフトに業務を引き継ぐ仕組みであり、
本来勤務延長による時間外勤務は発生しないはずですが、実際には多くの職場で発生しています。
時間外 ・ 休日労働は、
職場の労使の協定(労働基準法第 36 条に基づくものとして「36(さぶろく)協定」と呼ばれる)
の締結によってはじめて可能になるとされ、
具体的な時間外労働の上限時間は国が示す「限度時間」の範囲内で決められます。
心理・社会的要因
患者(利用者)・同僚および第3者による暴力
看護職への暴力行為は、
患者、およびその家族や関係者、
職場の同僚(看護職同士、または、医師をはじめとする多職種の同僚)、
さらに、それ以外の第三者によって引き起こされています。
近年医療現場だけでなく、販売業やサービス業など対人サービスの場面で、
お客さま(患者(利用者))から社員・職員へのクレーム、
とくに暴言や脅迫を伴う理不尽な要求が長時間にわたる、反復されるなど、悪質なものが増えていると指摘されています。
これらも暴力の一形態であり、組織的な毅然とした対応によって職員を守る必要があります。
平時から暴力発生時の対応を確認しておきましょう。
施設で、緊急通報システムや対応訓練マニュアルなど作成しておく必要があります。
ハラスメント
一般にハラスメント(嫌がらせ)は、
被害者の持つさまざまな特性(性差、年齢、資格、キャリア、婚姻、人種、宗教、性的志向、LGBT⦅Lesbian Gay Bisexual Transgender⦆、特定の感染症や疾患の罹患など)
を理由として引き起こされています。
ハラスメントの内容は精神的暴力と重なるものがあり、いじめもそのひとつと考えられます。
パワーハラスメントは、同じ職場で働く者に対して、
職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、
業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、
又は職場環境を悪化させる行為を指します。
上司から部下に対してだけでなく、
同僚間、さらには部下から上司に対しても行われることがあります。
職員も組織も人権意識を持ち、相談しやすい体制づくりが必要です。
施設内で、ハラスメント相談窓口があると思います。
自部署で、ルールを確認し、ハラスメントの防止と発生時の対処方法を情報共有しましょう。
また、患者(利用者)やご家族、同僚間も、敬意を払った言動を心がけることが重要です。
精神的ストレス
ストレスは
環境の変化や外部からの刺激に何とかうまく適応しようとすることで生じるものであり、
私たちにとってプラスな面とマイナスな面とがあるといわれます。
社会生活を送るうえで、誰しもストレスを避けて通ることはできません。
ストレスとうまくつきあうことは、
様々な病気の予防になるだけでなく、充実した生き方にもつながります。
一人ひとりがストレスとうまくつきあう方法を身につけ、
必要なときには周囲からの助けを得ることが大切です。
また、看護管理者や組織は、
ストレスの要因となる職場内のトラブルなどをコントロールし、
ストレスへの対処を支援する必要があります。
ストレスチェックの実施と分析、ストレス対処の研修を実施します。
メンタル不調のスタッフがいる場合は、
看護部長にも、ちょっと報告することをお勧めします。
いきなり長期休暇の診断書が提出される場合もあります。
復帰時には部署の変更や夜勤の免除など必要な対応がありますので、看護部長にご相談ください。
スタッフが、安心して職場復帰できる環境を考えていきたいです。
まとめ 看護師長は何をすればいいのか
スタッフが辞めない職場をつくるには、
看護師長も含めて、スタッフ間のコミュニケーションだと思います。
看護師長にとって大切なのは、コミュニケーションと自身の感情コントロールだと思います。
常日頃、スタッフの声や思いを聞けているでしょうか。
ちょっとした不満や心配など、小さいことから知っていると、早めに対処できます。
また、「これは、こういうこと」と、看護師長が説明できる機会があれば、誤解もなくなります。
看護師長が自分の思いを話して、理解してもらう機会も大切です。
看護師長が感情をコントロールできていないと、スタッフは、上司の顔色をうかがいます。
場合によっては、「今日は、機嫌が悪い」と、避けるようになります。
看護師長は、いやなことやいら立つことがあっても、顔で笑って心で泣いて。
愚痴は、看護部長が聞きますよ。
ムカっとしたら、副看護師長に、スタッフにこう言われたと相談して、ちょっと冷静に。
働きやすい職場って、コミュニケーションがとりやすい職場だと思います。
働いているスタッフが、自分の意見を安全に表出しあえる場所だと思っています。
もちろん、看護師長も。
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