看護師長はどんな経験を積み重ねれば、ベテラン師長になれるのか。
毎日、管理をしていると、いろいろな問題にぶつかります。それを、一つひとつ解決していると思います。
- 職員の急な休み
- 緊急入院のベッドの確保
- 患者からのクレーム
- 故障した医療機器の修繕依頼
- 急に必要になった医療物品の調達
- ときには、辞めたいと言い出した新人
- 問題のある医師への対応
毎日、本当にいろいろなことが起きて、大変ですよね。自分は、病棟の看護師長なのか問題処理係なのか、わからなくなるときもあると思います。
でも、そのような日々の雑務を経験していく中で、看護師長として成長していくのだと思います。
今回は、特に、看護師長として必要な経験、成長を促す経験をご紹介します。
3人の文献をもとに、効果的な経験を解説し、さいごにまとめとして、3つの文献から共通している、看護師長としてどんな経験を積み重ねたほうがいいのか、ちょっと、変ですが、お勧めの経験5選を紹介します。
というか、振り返って自分の成長につなげたほうがよい、経験5選を紹介します。
McCall,M.W.(1998)/金井壽宏訳(2002).ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法.プレジデント社
McCallは、リーダーの能力は、経験の積み重ねから得られるもの。適切な経験を積むことが成果をあげるリーダーに育つ、と述べています。
McCallは、「ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法」で、成長を促す経験を4つあげています。
まず、「課題」をこなした経験です。
看護師になりたての頃や、はじめて管理者になったときには、多くの課題をこなしたと思います。
スキルを覚えること、新しいチームの立ち上げ、教育担当などの役割。自分に課せられた課題を乗り超え、達成してきた経験は、自分の成長につながっていると思います。
次に、「修羅場」を経ることです。
看護管理者は、仕事上の失敗や部下との対応で修羅場を経験したことがあると思います。インシデントの対応や、苦情を訴える患者家族との対応、問題をおこす部下との対応など、くぐり抜けた経験です。
これらは難題ですが、対処の方法を学ぶ機会になります。
そして、上司を手本や反面教師にすることで「他者とのつながり」を学ぶことです。
上司と仕事をすることで、上司が持っているスキルを学び、上司のスタイルを自分のものにすることができます。
また、上司が反面教師という場合もあります。わたしの上司は、自分の考えと異なる上司と一緒に仕事をする中で、自分の経験の裏付けをえるために大学院に進学したそうです。この選択も、新たな成長の機会をもたらした成長を促す経験であったと言えます。
最後は、研修プログラムの参加と、仕事以外の経験です。
看護職は自己啓発として自ら研修に参加されていると思います。
また、仕事以外の経験が仕事に活かされるのを実感されていると思います。わたしは、今、ブログを書くという仕事以外の経験にチャレンジしています。
倉岡有美子(2016)仕事上の経験を通じた看護師長の成長に関する質的研究:日本医療・病院管理学会誌,53(1),41-48
倉岡先生は、成長とはスキルを獲得することと、言っています。新人看護師は、注射や吸引など看護技術をスキルとして獲得できると、先輩からも成長したと認めてもらえると思います。
スキルの獲得とは、いろいろな状況の下で効果的な行動がとれるようになることだそうです。
新人看護師は、どのような患者さんにも注射や吸引ができるようになると、スキルが獲得できたと自信が持てるようになりますね。
それでは、看護管理者にとって看護管理のスキルとは何でしょうか。
倉岡先生は、この研究で看護管理者が行うべき看護管理実践を、以下のように定義していました。
- 理念に基づいた組織運営
- 看護スタッフの実践環境を整える
- 看護実践に必要な資源管理を行う
- 看護実践の質保証と向上を行う
- 看護実践組織の力を高めるための教育的環境を作り出す
そして、この研究で、看護部長に優れた看護管理実践をしている看護師長を1-2名推薦してもらい、約1時間程度のインタビューをしています。その10人のインタビュー結果から行った質的研究です。
倉岡先生は、看護師長の成長につながった仕事上の経験を4つ、説明しています。
変革を成し遂げた経験
例えば、プライマリーナーシングなど、新たな取り組みを導入する、業務改善とかの変革を成し遂げた経験です。
実際の行動として、リーダー役割を担っているスタッフナースを巻き込む、医師にとってのメリットを示す、改善したい理由をデータや文献を使って伝えるなど
この変革を成し遂げた経験から、人を巻き込むというスキルが獲得できます。
部下を育成した経験
部下に期待する役割を説明して任せる、漠然と部下の業務を手伝わず成長に応じて意図的に手を引く、真剣に部下に向き合い方向性を示し師長としての考えを率直に伝え、部下の考えを聞くことで内省を促すなど
部下を育成した経験から、部下の自立を導くというスキルが獲得できます。
管理部署の変化の経験
例えば、手術室など経験したことのない部署へ異動する。隣の病棟も管理するなど、管轄する部署の拡大とか
自分の限界を認め、できない点を部下に伝え、協力を求める。部下の得意分野を任せて関係を築く。実践を通して業務内容や部下のことなど部署全体を把握する。また、部署を知ろうとする姿勢を部下に見せる。など
管理部署の変化の経験から、信頼を構築するスキルが獲得できます。
窮地に立った経験
例えば、アクシデントの発生や次々と退職者が増えたときなど
そんなときは、問題が起きた状況や退職理由を分析する。環境の整備や教育など再発防止のための方策をとる。など
窮地に立った経験から、場当たり的に解決するのではなく、問題の本質をつかむスキルを獲得できます。
吉川三枝子,松下由美子,吉田文子,内山明子,吉田和美(2021)看護管理者の成長を促進した仕事上の経験:佐久大学看護研究雑誌,13(1),1-10
この研究では、優れている看護管理者を以下に定義しています。
- 他人とうまくやっていくことができる
- 優れた看護を実践できる
- 部下育成に熱意があり部下から信頼されている
- 看護や管理についてビジョンが明確である
- 状況の変化に敏感でチャレンジングであり、成果を出している
- 自己研鑽に努力している
吉川先生自身の先行研究で明らかになった優れた看護管理者の多様な経験をもとに、質問用紙を作成し、34施設650名の看護管理者に配布し328名から回答を得た量的研究です。
その結果、看護管理者の成長を促進した仕事上の経験の構成因子を8つあげています。
上司によるメンタリング
日々のフィードバックや承認、役割モデル、キャリア開発支援を上司から受けた経験です。
例えば、上司が良いことも悪いことも指摘してくれた。上司の人としての姿勢や、役割モデルとして学んだ。上司が自分を信頼して責任ある仕事を任せてくれた。上司が自分の成果を認めてくれた。上司が自分を人として大事にしてくれた。など
チャレンジングな取り組み
師長になったときに職場の雰囲気づくりに努めるために、スタッフに自分から話しやすい関係性をつくるようにした。目標面接で部下との意思疎通を図った。
部署の専門的知識・技術の習得に研鑽を積んだ。看護部門の業務改革をした。など
人を育てる役割を担う
スタッフのときに部署の教育委員や新人指導係を担当した。主任時代に上司と部下のパイプ役を努めた。問題行動のある部下の育成に熱意をかけた。など
リーダーとしての苦境体験
リーダーシップの未熟さでメンバーが遠ざかった。スタッフのときに高慢な発言でメンバーから孤立してしまったことがある。上司に批判的発言をして逆に諭された。リーダーとしてメンバーの悩みに傾聴できず窮地を救えなかった。など
師長新任期の役割不全
なり立てのときに、部下や医師との関係を築く難しさに直面した。スタッフ業務と管理業務の配分に苦悩した。師長昇進と同時に異動となり、役割が発揮できなかった。など
継続教育からの学び
自分自身の継続教育で問題解決技法を学んだ。看護とは何かについて極めたことがある。管理や経営について学んだ。など
患者との真摯なかかわり
患者から看護師長として信頼された。患者から人間としての生き方を学んだ。患者から部下の言動を褒められた。
これは、何より、うれしい
反面教師としての上司とのかかわり
上司の不完全な管理行動をフォローしたことがある。上司の尊敬できない言動を反面教師として学んだ。など
まとめ
以上、3つの文献をもとに、共通している看護師長としてどんな経験を積み重ねたほうがいいのか、ちょっと、変ですが、お勧めの経験5選を紹介します。
というか、振り返って自分の成長につなげたほうがよい経験5選となります。
経験を振り返る方法、成長につなげる方法はこちらをご参照ください。
業務改善や部署の課題を解決し、変革にチャレンジする経験
わたしは、今から15年前に、管理していた部署の夜勤を3交代から2交代にしました。
自部署の課題を分析して、業務改善で新しいことを始めるときは、いろいろな対策をたてて、人を巻き込んで実践していきます。
例えば、セカンドレベルの実践計画もこの経験にあてはまると思います。
部下との信頼関係をつくり、部下を育てる、人財育成の経験
自部署の看護ケアの質を向上させるためには、部下が一人ひとり自律した看護師として育ってほしいと願い、いろいろかかわると思います。目標管理も人材育成には必要な看護管理実践です。
一人ひとりをよく知って、力を伸ばすかかわりは、看護師長の人材育成の力を伸ばします。
窮地に立って苦境を乗り越える、まさに修羅場を乗り越えた経験
アクシデント、患者や家族からの苦情の対応、メンバーの悩みに対応できずに離職者が増えた時など、看護師長が自ら、いろいろな行動を起こすと思います。
ときには、師長自身も打ちのめされます。
上司に助けてもらったり、同僚の看護師長に励まされたりしながら、乗り越えていきます。最近は、感染症のクラスターを経験した看護師長もいらっしゃるのではないでしょうか。
上司との関わりから学んだ経験
問題発生時に上司から受けたアドバイスや、一緒に、問題解決をしてくれたときの上司の管理スキル。
逆に、上司に傷つけられた言葉や、問題解決になっていない逃げの態度など、上司を反面教師として学んだ経験が、自分の看護管理のスキルに取り入れることができます。
研修の受講や、仕事以外の経験
看護管理者になると、ファーストレベルやセカンドレベルなどの認定看護管理者教育課程を受講することもあると思います。
そこでは、看護管理について学ぶこともできますし、同じ立場の参加者とつながることもできます。グループワークなどで日ごろの悩みを共有する中で、自分一人では思いつかなかった気づきを得ることもできます。
自分の看護管理実践の幅が広がるのではないでしょうか。
以上、3つの文献をもとに、看護師長の成長につながる経験を5つ挙げてみました。
あらためて、やるぞーと力を入れることもなく、日々の管理実践で経験していることだと思います。その経験は自分のスキルになります。
つらいこともいっぱいあると思いますが、真摯に取り組むしかないですよね。
コメント